top of page

​地唄舞の演目~歌詞と想い出

​新しい演目に取り組むとき、どなたも歌詞を調べ、言葉の意味や、それにまつわる逸話を調べ、自分なりの解釈を考えます。

​そんなあれこれを書いてみました。私は研究者ではないので、あくまでも自分なりの解釈で、ときには根拠のない妄想や今となっては恥ず  かしい 想い出も。    

少しずつのんびり書いて行きますので、気長にときどきのぞく程度にして下さい。

 

November 17, 2017

真の女子力が試される

軽くて短い端唄系の曲。短くて簡単だから、とわりと気楽にとりあげてしまいますが、これがとても難しい。型をきちんとこなすだけではだめで、いわゆるこなれ感が要求されるのですね。月と自分と、おそらく舞をご覧になっているお客様との距離感をイメージできる豊かな想像力も必要。

しか~し、女っぷりの良さで舞こなす、というウルトラ技もありです。でも、媚びた舞い方や作為的に女っぽく舞うのはNG。媚の一切ない女っぷりで舞いましょう。なんたってもてもての役なんですから。時々、技術的に初心者でも、もともと持っているオーラとか女子力でとても魅力的にこの曲を舞う方がいらっしゃいます。私などはいくら頑張ってもただの器用な舞にしかならないので、私より素敵に舞うお弟子さんをみて心のなかで「まいった!」と言っております。

November 26, 2017

難波の浜、芦の原、風・・・・自然にとけるように舞いたい

「芦刈伝説」という言葉をご存知でしょうか?大和物語という歌物語に書かれているテーマで、愛し合っているのに貧乏のため再会を誓って別れた夫婦が、時を経て難波の浜で会えたとき女は大出世をしていて、男は落ちぶれてみすぼらしい姿で浜の芦を刈っていて・・・・・というお話です。とても日本人の感覚にあっているようで、今昔物語でも語られ、お能にもなっていて、それぞれ少しずつストーリーが違っていたりします。

 夫婦愛を描いたものかと思いきや、「われは恋には狂わねど、恋という字に迷うゆえ~」などと、格調高いつや物みたいな歌詞もでてきて、あら、まあそうなの、いいわね、と思ったりします。

でも、私が一番好きなのは最初に出てきて、最後にざざんざという松風の音で終わる、風景描写です。景色だけでなく、風や音までゆったりと描写していることによって、この演目を眼前の生臭い話でなく、こんな美しい日本の自然を舞台に人の営みが繰り返されそれもまた風にとけていく、というような俯瞰の視点で語っているクールさが全体に流れています。舞としては随所にあらわれる能特有の仕草も素敵。

お流派によっては前半の風景描写がカットされていますが、是非全体を経験して頂きたいです。

 

 

August 12, 2018

綾衣

とっておきの楽しみ

いわゆる狂乱ものとでも言いますか。愛する男性に去られて裸足のまま追っかけて、そのまま野宿、周りの方がひそひそ声で指さす中をとぼとぼと歩くストーリーです。

髪の毛ばさばさ、衣は汚れ、放心状態、近づくと匂うかも。だけどとっても美しいのです。

こういうの日舞にもいくつかありますが、どれもとても美しい作品ですね。

大切なのは自分が入り込んで興奮しないこと。体温を上げないで、その美しさだけを端正に表すこと。

そうしてとっておきの楽しみをお教えします。貴女のお好きな美人画のなかでちょっと気がどこかへとんじゃってる女性を描いたもの、その女性になって舞うと本当にいい気分で舞えます。

気分はすっかり上村松園?伊東深水?私は鏑木清方の絵が好き、その日の気分で絵を選んでいます。でも、ご覧になっている方はそんなことに気がつくわけもなく・・・・・邪道ですけど、それぐらいは楽しみましょう。

岸の柳に引きとめられて 歩みならわぬ陸地をも上りつ戻れぬ幾度か  一夜を明かす八軒家  雑魚寝を起こす網島の 告ぐる烏か寒山寺  尽きぬ話の種となりけん

December 26, 2017

こんなものをやりたかった

きぎすとは「雉」そう、あの鳥のキジです。いったいに地唄の歌詞は最初の部分がとても印象的で素敵なものが多いのですが、これも「きぎす鳴く~」から始まり、そこで一気に野山の香りと雉の鳴き声の世界に引き込まれます。

私はこの出だしが大好きで、はやく手掛けたいと思う一方、こういう音も振りもシンプルなものはよほど地唄舞の基本ができていないとこなせないこともわかっているので、ずっと待っておりました。

今も突然上達したわけではないのですが、内面的にはこの歌詞がしみじみと理解できる年になってきたので、ぼつぼつ教わってみました。

本当に素敵な曲で、これを舞うと日々の忙しさのなかで失いかけている、温かく柔らかで優しく人を愛する気持ちを思い出させてくれます。この年の暮れ、最後にこの演目と共に年を見送り年をとることができることを幸せに思います。

でも、大きな問題が・・・・

私共の流派では始まり部分がなくて、「春にも育つ花誘う」から始まるのです。最初の部分を家元が作舞して下さるそうですが、忙しい方なので、少し暇なとき(暇なときはなさそうです)に催促せねば。だって知らない人はきぎすじゃなくて蝶の唄か何かだと思われるでしょう?

November 21, 2017

すくっと立ってほしい

「雪」とならんで地唄舞の代表的な曲として知られていますが、あまり長くないしさほど高度な技術も要求されないので、最も多く演じられる曲の一つです。それだけになかなかよい舞を見せて下さる方も少ないです。上手、下手ということ以前に、なよなよと舞ったり色気過剰だったり、なかには本当に泣きそうなお顔で舞う方も見受けられます。ここからが私の独断的見解なのですが、黒髪の女は決して泣きません。というより泣けないのです。曲の背景をご存知の方はおわかりと思いますが、大志のために自分の夫を北条政子にさし出す女です。めそめそしようにも自分が決断したことなので泣けません。信念があり涙も流しませんが、何故かいてもたってもいられない、自分でも理解できない感情が体の奥から突き上げてきます。努力で超えられることならものすごく頑張る女ですが、最後に体の奥に残っていたのはなんだったのでしょう。理解しがたい己の部分をどうすることもできず、ただ髪をくしけずる、そんな場面です。

 最後は冷たい雪をじっと見て、わたしゃこれでいいんだ、と生きていきます。いろいろなものを抱えながら実はかっこいい女です。それにかわいい!すくっと立って美しい!そんな舞を見たいです。 

July 28, 2019

一曲入魂

とても美しい曲に、端正な振りがついています。「雪」と同じく峰崎勾当の作曲といわれていて、舞手の呼吸とシンクロして「地唄舞やってます!」という感覚に浸れます。

しか~し、疲れます。呼吸が乱れてはいけないし、重心がぐらついてはいけないし、体温をあげてはいけない。かと思うと、ぱっと止まってその一瞬呼吸の流れがふっと止まる。そのうえ、丁寧に舞っただけではただの「辛気くさい」舞になってしまうので、体の奥にかすかな炎もチチチと燃やさなければならない。かくして最後に雁と一緒に去り行く方を見送った後は、気力がへとへとになります。

実に素敵な曲で、たまに夜中に一人で舞いたくなりますが、本気で舞えば一度で十分。なかなか二度は舞えません

というわけで、お稽古はしんどい曲です。教えるほうも教えられるほうも。

春の夜の 闇はあやなし それかとよ 香やは隠るる梅の花  散れど薫りはなほ残る  袂に伽羅の煙り草  きつく惜しめどその甲斐も  亡き魂衣ほんにまあ  柳は緑紅の花を見捨てて帰る雁

November 11, 2017

高砂 

手ごわいを超えてこわい曲です

地唄舞の最初に教わる曲。「タカサゴ?」結婚式で謡うあれでしょ?全然色っぽくないし、なんだか古臭いわね  。というのが私の最初の印象でした。地唄舞といえばはんさんの「ゆき」じゃないの?

よくわからないけど、前に歩くときに足をねじったり、丹田?なにそれ?ちょっと理解不能で消化不良。

ところがそれが地唄舞のツボだったとは!これが正しくできなけりゃ地唄舞になりません!

ごまかしようがなく、ひたすらまっすぐに努めるしかない。今でも大変に難しい曲の一つです。

高砂やこの浦舟に帆をあげて 月もろともに出で潮の 浪の淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて はや住江につきにけり はや住江につきにけり

November 15, 2017

鶴の声

だんだん大人の舞になっていく曲

多くのお流派で高砂の次に教わる曲です。高砂と同じように結婚式披露宴で舞われるおめでたい曲です。初心者向けの曲ということになっていますが、ある程度年を重ねた女性が舞われると、大人の女性のエレガントさと包容力が表現でき、実際にかなりお上手になられた方が好んで舞われるように思います。歌詞が、ささいなことから恋が始まり迷いの時を経て結婚の日を迎える若い女性を祝福する内容で、舞手の結婚するご本人への慈しみの感情が感じられるからでしょうか?私も大好きな曲。大人の女性に似あう曲です。

姪御さん、お孫さんの結婚式に舞って差し上げて下さい。

軒の雨 立ち寄る蔭は難波津や 葦葺くやどのしめやかに語りあかせし可愛いとは嘘か誠か その言の葉に 鶴の一声幾千代までも 末は互いの共白髪

October 13, 2018

ひなぶり

鄙で雛

ひなぶりの「ひな」は‘ひなにもまれな'の鄙(ひな)、つまり田舎のことだそう です。田舎めいた舞い方をする、ということでしょうか?  私は長い間お雛様のひなだと思っておりました。他の地唄舞は子どもでも大人みたいな舞い方をするのに、この曲は雛ぶりだから大人でも小さい女の子みたいな舞い方をなさるのだと。結局いろいろな説を統合して次のように解釈して舞っております・・・

大阪の廓、島之内に奉公している田舎から出てきたばかりの女の子が、よく意味もわからないで大人の言っていることを真似して言っている・・・遊女たちはお客さんを選ばず喜ばせなさいよ、とか、紋日の約束はやく取れないとだめだよとかいつも言われているのでしょう。特に置屋から揚屋に向かう駕籠に乗るときは格別に気合を入れて出発!それを小さい女の子が意味もよくわからずはやしている・・・・考えてみればこまっちゃくれた子ですが、まあおおらかで洒落た曲です。ちょっと直線的に舞って独特の洒落感を出しましょう。意外と子どもでなく私みたいな十分人生を経験している大人の女性に似あうように思います。

恋の重荷のナ 島之内   送り迎いにかく駕篭の   誰であろうとしてこいナ  棒鼻に括り付けたる提灯の 日柄の約束してきたな   高いも低いもいろの道なエ たてるたてんの息杖も   つきぬ楽しみええさっさ  おせおせ夢の通ひ路なエ 

December 08, 2017

踊り好きはみんな大好きな曲

地唄ではなく、上方唄ですが、「柳やなぎ、大好き」とおっしゃる方が多いです。私も大好き!

どこがいいって、体のあちこちを柔らかくたくさん動かせるので、体が気持ちがよく、肩こりもなおってしまいます。

地唄舞というと、格がどうのこうの、とか、余計なものをそぎ落として、とか、凝縮させてとか・・・・

そりゃあ素敵だけど、ストレスもたまるんです。

でもこの曲になると、思いっきり粋に、しなしなと、ふらふらと舞っていいのですから体のあちこちが大喜び。

そうしてこの曲を舞うと何故か思い出すのはビッグコミックに連載されていたジョージ秋山の「浮浪雲(はぐれぐも)」。

浮浪雲って今年の9月まで連載されていたんですって!なんと44年間!もうとっくに終了しているとばかり思っていたのでびっくり!

それもそのはず、柳やなぎはこの唄の作曲者である祇園の芸妓「ゆかえ」と、その贔屓客であった吉野五運との仲を風刺して作られた唄であると言われているのだそうです。まさに浮浪雲の世界ですね。

Please reload

bottom of page